夫の借金を妻が返済する場合の法的責任と対処方法

夫の借金を妻が返済する場合の法的責任と対処方法

夫が借金を抱えている時に、借金の返済義務は原則として本人にありますが、場合によっては妻に返済義務が生じることがあります。

また、夫が借金を残したまま死亡した場合には、相続人として子供たちに負担をかける可能性もあるので夫の借金の対処方法を知りなるべく早く対処することが大切です。

この記事では夫の借金の状況を把握し、返済可能な範囲での借金整理・債務整理などの対処法について解説しますので参考にして下さい。

妻が夫の借金を返済する必要がある場合

夫が結婚前に作った個人的な借金や、趣味やギャンブルなどで作った借金について、名義人が夫のみであっても、場合によっては妻が返済義務を負う可能性があります。

借金の理由が「日常家事債務」に該当すること

借金の理由が「日常家事債務」に該当することとは、夫婦が共同生活をする上で生じた債務が、家賃の支払いや生活必需品の購入などの日常的な家事に関連している場合を指します。

「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない」(民法761条)

この場合、夫婦は連帯して責任を負い、妻も夫の借金を返済する義務を負う可能性があります。「日常家事債務」は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入などによって異なりますので、司法書士や弁護士などに相談し判断することが望ましいです。

借金の保証人が妻であること

借金の保証人が妻であるとき、夫が借りた借金について、妻が保証人として責任を負うことになります。これは、夫の個人的な使途のための借金であっても同様です。

借金の名義人である夫が返済できなくなった場合、妻に返済義務が生じ、貸金業者から妻に請求の連絡がきたり、強制執行される可能性があります。保証人になった覚えがない場合も、夫が妻の印鑑を勝手に使って契約をしている可能性があるため、管理には注意が必要です。

また、返済が困難な場合に、債務整理をすることになった場合には夫だけでなく妻も手続きが必要になります。

夫が借金を抱えている時に対処すべきこと

借入額・借入先の詳細を確認

夫が借金を抱えていることが発覚したら、まず借金の内訳を確認することが重要です。借りている金額や借り元などの借金の内訳を確認しましょう。

日本信用情報機構(JICC)によれば、消費者金融などの貸金業者から借り入れをしている人は2022年6月末現在で1,000万人以上いて、その内3件以上に借り入れをしている人は約11%といわれています。借り入れを3件以上している人の平均残高は120万円となっています。そのため、借金が1件しか発覚しなくても、他にも借金している可能性があるため、借金をしている全ての貸金業者から内訳を確認することが重要です。

そして、返済のために他社からさらに借り入れする自転車操業状態である場合は、速やかに対応する必要があるので、早めに正確な状況を把握し、返済計画を立てて借金を返済することが望ましいです。

返済の滞納・督促がないか確認

返済が滞っていることに気が付いたら、まずは貸金業者に連絡をし、返済スケジュールや返済方法を確認しましょう。

また、返済滞納により生じる遅延損害金や督促状、強制執行などの問題についても、早めに調整をするように話をすることが重要です。

担保が付いている借金か確認

担保を付けた方が多額の借り入れができることが一般的です。

担保を付けて借金をしていると、返済が滞った場合には担保の資産を取り上げられてしまうことがあり、建物・土地といったものを借金の担保にしていると自宅を失うリスクすらあります。

担保になっている資産かどうか夫に確認が難しい場合には法務局で「不動産登記事項証明書」を取得して確認しましょう。

借金の原因を調べこれ以上借金をしないように対策

借金の原因を調べることは、これ以上借金をしないようにするために重要です。夫が借金を隠していた場合は、再度借金をする可能性があるため、なぜ借金をしたのかを確認し、対策を講じる必要があります。

そのためには、支出状況を見直し、家計を妻が管理し、小遣い制を設けるなどの対策が有効です。また、クレジットカードを預かり、ギャンブル依存症があればカウンセリングを受けさせることも重要です。

さらに、日本貸金業協会に申告して、本人や親族を5年間ブラックリストに載った状態にする貸付自粛制度を申請すれば新規の借り入れができなくなります。

借金返済計画の具体化

借金の利息を最小限に抑えるためには、返済を早めることも検討すべきです。支出状況を見直した上で、収入を増やす方法を考える必要があります。

まずは借金の利息と本体を区別し、利息を最小限に抑えることが大切です。最終的には、借金を返済するために必要な収入を確保し、かつ支出を抑えることで、返済期間を短縮し、返済額を減らすことができるようにすることが重要です。

収入を増やす方法としては、キャリアアップを目指せる環境に転職する、妻が専業主婦ならパートに出るなどして働く、副業するなどが検討できます。

妻が夫の借金を肩代わりするときの注意点

返済義務のない夫の借金を妻が肩代わりするときには、書面で契約を交わした方がよいです。

妻の固有財産で夫の借金を返済するときは「債務承認弁済契約書」、妻が働き夫の借金返済を手伝うときは「準消費貸借契約書」などを作成し、万一離婚など後々のトラブルが起こっても、きちんとお金を返してもらえるよう対策が必要です。

親族への相談

夫の親族と借金の内訳を確認し、返済計画を立てることも有効です。親族にも借金に対する認識を持ってもらうことで、夫がこれ以上借金をすることを防ぐことができます。

親族に協力をお願いすることで、返済に必要な金額を稼ぐためのアイデアや、経済的な援助を受けられる可能性もあります。

債務整理を考える

借金が多すぎて、返済計画を自力で立てるのが難しいという方は、返済負担を減らす方法である債務整理を考えてみるとよいでしょう。

債務整理は、早めに対応することが大切です。返済が困難な経済状況が続く場合は、司法書士や弁護士など専門家に相談することも検討しましょう。

借金の利息分をなくし返済負担が軽減可能な任意整理

任意整理は貸し手との交渉で利息をカットしたり返済回数を36~60回(3~5年)にしたりして返済負担が減らせる手続きです。

安定した収入があり、生活費を差し引いた後でも計画通りに返済できるならば、任意整理で借金を減らせることがあります。

借金を最大90%軽減可能な個人再生

個人再生は、収入が安定していても、借金の金額が多すぎて任意整理での返済が難しい場合に検討されます。

任意整理と個人再生で借金の元本は最大で90%軽減ができます。

個人再生を申請するには、金融機関からの手当てを受けられる資格が必要であり、自己破産とは違って、住宅や財産を残して手続きすることが可能です。

借金をゼロにすることが可能な自己破産

経済状況として任意整理・個人再生といった債務整理が難しいときに検討されるのが自己破産です。

借金返済の見込みを立てられない支払不能状態を裁判所が認めることで、財産を処分し借金をなるだけ返済する「破産」手続きの後に、借金をゼロにする(免責)によって借金を返済する必要はなくなります。

離婚後も夫の借金を返済する義務はあるのか

離婚後に、妻は夫の借金に対して返済義務を負うことはありません。ただし、離婚後に夫が借金を残したまま死亡した場合は、相続人となる子どもに借金が相続される可能性があります。

それを避けるためには、生前に債務整理を行うことが重要です。また、相続人となる子どもの負担を減らすためにも、相続放棄や限定承認の選択肢もありますが、それらはプラスの財産とマイナスの財産のバランスを考慮することが重要です。

借金を理由に離婚することはできるか

借金が原因で離婚したい場合、協議離婚をすることで双方の合意が得られる可能性があります。

しかし、家庭裁判所での離婚は難しく、裁判でも借金のみを理由に離婚を成立させることは困難です。生活が借金のせいで成り立たない、不倫相手に貢いでいるなど借金が法律で認められている離婚理由に繋がることを立証しなくてはいけません。

借金問題が原因で婚姻が破たんしていることを示すために、相談し、法律のアドバイスを受けることを検討することが重要です。

夫が借金を残したまま死亡したときにすべきこと

相続放棄の手続きは生前にはできないため、夫が死亡した場合には相続人になった自分自身や子どもの負担を減らすために、早めに債務整理をすることをおすすめします。

また、遺産の分配や相続について詳しくは、専門家に相談することでより詳細なアドバイスを受けることができます。

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