給与所得者等再生が失敗になるワケや最低弁済額と可処分所得について

給与所得者等再生が失敗になるワケや最低弁済額と可処分所得について

給与所得者等再生は個人再生の中でも特殊な手続きで、小規模個人再生とは適用要件や借金の減額率、手続きの流れなどが異なります。

借金問題を解決するためには、適切な手続きを選択することが重要であり、給与所得者等再生と小規模個人再生の違いや特徴を理解しておくべきです。

この記事では、給与所得者等再生と小規模個人再生との違い、要件や対象となる方について詳しく解説します。

給与所得者等再生とは

給与所得者等再生は、会社員や公務員などの収入が安定している個人の債務者に適用される個人再生手続きの1つです。

給与所得者等再生は、小規模個人再生と違って再生計画の認可要件がゆるいです。サラリーマンや公務員のように収入が安定していて、債務をきちんと返済する可能性が高いと判断される場合に適用されます。

このため、サラリーマンや公務員のように収入が安定している個人は、小規模個人再生だけではなく、給与所得者等再生も選択することができます。

給与所得者等再生を利用するための要件

  • 再生手続開始要件

  • 再生手続を継続するための要件

  • 再生計画認可要件

給与所得者等再生を利用するためには、条件(法律要件)を満たしていなければ利用できません。

個人再生では、再生手続きを開始させるかどうか、再生手続きを継続してよいか、再生計画を認可してよいかといった段階があり、それぞれ要件の審査がおこなわれます。

再生手続開始要件

再生手続開始要件とは、裁判所で個人再生手続きの開始決定をしてもらうための要件です。

要件を満たさない場合には、個人再生の申立てをおこなっても棄却されてしまいます。

一般的によく利用される小規模個人再生と共通する要件と、給与所得者等再生だけの固有の要件があります。

給与所得者等再生の開始要件

  • 債務者が個人である

  • 負債総額が5,000万円を超えていない

  • 再生手続の開始原因がある

  • 将来において継続的または反復して収入を得られる見込みがある

  • 再生手続開始申立棄却事由がない

  • 給与または給与に類する定期的な収入を得ている

  • 定期的な収入の変動幅が小さいと見込まれる

  • 過去に給与所得者等再生を利用した場合の再生計画認可決定確定日、ハードシップ免責を受けた場合の再生計画認可決定確定日から7年以上経過している

  • 過去に破産した場合の免責決定確定日から7年以上が経過している

  • 給与所得者等再生をおこなうことを求める申請をしている

再生手続を継続するための要件

給与所得者等再生の手続が開始されても、手続きが途中で打ち切られてしまうこともあります。

給与所得者等再生の手続きを継続するためには、要件があります。

給与所得者等再生の継続要件

  • 不認可事由がない再生計画案作成がある

  • 再生計画案の提出期間またはその延長期間内に、不認可事由のない再生計画案を提出している

  • 民事再生法41条1項各号及び同法42条1項各号に定める行為をする場合には、裁判所の許可を得る

  • 記載すべき財産を「財産目録」に記載している

再生計画認可要件

再生計画認可要件とは、裁判所に再生計画を認可してもらうために満たすべき要件です。

再生計画認可要件を満たさなければ、せっかく進めた再生計画が不認可になって借金を減額してもらうことができません。

再生計画認可要件

  • 再生計画に法律違反がない

  • 再生手続に重大な法律違反がない

  • 再生計画を遂行して借金を返済できる見込みがある

  • 将来において継続的または反復して収入を得られる見込みがある

  • 再生債権の総額が5,000万円を超えていない

  • 計画弁済総額(再生計画による支払い総額)が最低弁済額を下回っていない

  • 再生債権者の一般の利益に反しない(清算価値保障を満たしている)

  • 計画弁済総額が、可処分所得額の2年分以上である

  • 給与または給与に類する定期的な収入がある

  • 定期的な収入の額の変動幅が小さいことが見込まれる

  • 過去に給与所得者等再生を利用した場合の再生計画認可決定確定日、ハードシップ免責を受けた場合の再生計画認可決定確定日から7年以上経過している

  • 過去に破産した場合の免責決定確定日から7年以上が経過している

給与所得者等再生の効果

給与所得者等再生は、会社員や公務員などの収入が安定している人が利用できる特別な個人再生手続きです。裁判所が承認した再生計画に従って債務を償還することができます。

給与所得者等再生は、債務額を最低限弁済額(債務額の5%から10%の減額)または可処分所得の2年分または破産時の配当予想額(清算価値)のいずれか高い方にまで減額することができます。また、3年から5年の分割払いが可能です。

借金を減額できる

給与所得者等再生は、収入の安定した人が利用できる特別な個人再生手続きですが、民事再生法で規定されている最低弁済額は必ず支払う必要があります。

そのため、借金(負債)の減額率は、残った借金の総額によって違います。

残った負債の総額

最低弁済額

100万円未満

減額されないで全額支払う必要がある

100万円以上500万円以下

100万円へ減額される

500万円を超え1500万円以下

総額の5分の1

1500万円を超え3000万円以下

300万円へ減額される

3000万円を超え5000万円以下

総額の10分の1

分割払いできる

小規模個人再生では、減額された額を分割して支払うことができます。

その期間は基本的に3年間ですが、事情によっては5年間にすることもできます。

支払いの頻度は毎月1回が基本ですが、3か月に1回などにすることも可能です。

給与所得者等再生と小規模個人再生の違い

個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2つの手続きがあります。

小規模個人再生と給与所得者等再生の手続きの流れは基本的には同じですが、適用要件や手続きの違いがあります。

認可要件の違い

小規模個人再生は、残債を返済するのに十分な収入であれば利用できますが、給与所得者等再生は収入の安定性が必要です。

フリーランスや自営業者は収入が不安定になるので、給与所得者等再生を利用できません。

収入要件が小規模個人再生の方がゆるいので、多くの人が利用できます。

最低弁済金額の違い

小規模個人再生では、民事再生法に定められた最低弁済額または清算価値保障の原則のうち、高い方の金額を返済する必要があります。

一方、給与所得者等再生では、最低弁済額や清算価値保障の原則に加え、可処分所得の2年分を超える金額を返済する必要があります。

そのため、給与所得者等再生を利用する場合は、小規模個人再生よりも支払金額が高くなることが多いです。

再生債権者による決議の有無の違い

小規模個人再生は、債権者の決議によって再生計画が承認されるので、多数の債権者が反対している場合は承認されないことがあります。

一方で、給与所得者等再生は債権者の決議を必要としないので、多数の債権者が反対している場合でも、借金を減額してもらえる可能性があります。

そのため、小規模個人再生に失敗した人が、あらためて給与所得者等再生も申し立てることもあります。

給与所得者等再生を利用できる人・できない人

給与所得者等再生を利用できる人

会社員・公務員

会社員や公務員であれば、給与所得者等再生を利用できます。

ただし、1年に20%を超える収入の変動がある場合や、収入の金額が極端に少ない場合には利用できない可能性があります。

アルバイト・パート・契約社員・派遣社員

アルバイト・パート・契約社員・派遣社員といった給与所得者でも、収入の金額が安定または反復して見込まれて要件を満たせる場合には、給与所得者等再生を利用できる可能性があります。

ただし、転職を繰り返している、就業状況が不安定であるといったケースは、要件を満たせるだけの収入がないと判断されて利用できないことがあります。

年金生活者

年金生活者は、給与所得者ではありませんが、年金は、毎年定期的・継続的に給付される安定した収入なので、要件を満たせる金額があれば給与所得者等再生を利用できる可能性があります。

給与所得者等再生を利用できない人

フリーランス・自営業者

フリーランス・自営業者は、給与所得者等再生を利用できません。

フリーランスや自営業者は、たとえ収入の変動幅が小さくても、給与所得者等再生を利用できるほど収入が安定していないと判断されるためです。

収入が不安定な人

給与所得者であっても、収入が不安定で反復した収入を得られる見込みがない人は、給与所得者等再生を利用できません。

収入がない人

専業主婦や無職の人は、そもそも収入がないので個人再生を利用することができません。

給与所得者等再生の手続きの流れ

専門家に相談と依頼

個人再生の手続きは個人でも申立てができますが、ほとんどは専門家である弁護士や司法書士に依頼しておこなっています。個人再生は借金の総額や所有する財産、収入などを全て含めて計算して本当に個人再生が必要か?別の手続きでも借金を解決できないかのアドバイスをもらえます。

受任通知

弁護士や司法書士に個人再生の依頼を正式に出すと受任通知を各債権者(貸金業者)に通達してくれます。受任通知を受けた業者は取り立てや督促を債務者(あなた)にすることができなくなり、弁護士や司法書士に連絡しなくてはいけません。

受任通知は依頼した日から効果があり、弁護士や司法書士が貸金業者に対して受任通知を通達していない場合であっても、債務者(あなた)に対して電話がかかってきたときに依頼したことを告げれば直接の取り立てはおこなえなくなります。

債権調査・書類準備

再生計画案を作成するために債務者(あなた)の財産がどれくらいあるかを調査します。財産が多いほど個人再生の手続きで残る最低返済額が上がります。最低返済額を下げるために財産を隠すと個人再生じたいが否決される可能性があるので隠すことはやめましょう。

調査した財産も含めて申立てに必要な書類や再生計画案の作成をしてもらいます(個人で申立てをする場合は一人ですべて対応します)。

裁判所への申立て

財産の把握と書類の準備が整ったらいよいよ裁判所への申立てです。裁判所の申立てには申立書、陳述書、債権者一覧表、添付書類(源泉徴収票、給与明細、財産目録、戸籍謄本、住民票など)を提出します。弁護士に依頼している場合は自分が裁判所に行くことはありません。

個人再生手続きの開始決定

提出した書類などに不備がなく、審査が通れば申立てから約1か月後に再生手続き決定がされます。

再生計画案の提出

再生計画案は借金をどれくらい減額し、3年間で支払っていくかを記載した計画案です。個人再生の一番の目的は再生計画案の認可なので重要な手続きの1つです。提出期限が1日でも過ぎると否決され手続きが終了します。弁護士に依頼している場合は任せることができるので安心ですが、個人でする場合は期限を守れるように行動しなくてはいけません。

債権者集会・履行テストの開始

小規模個人再生の場合は債権者数(借入先)の2分の1の業者から同意を得ないと個人再生は失敗します。また、再生計画案通りに返済できるか確認するための履行テストもはじまります。

再生計画案の認可

債権者からの賛同を得て、約半年間の履行テストを終えると再生計画案の認可がされます。

返済スタート

再生計画案通りに毎月の返済をおこなっていきます。返済期間中は新たな借り入れをしてはいけません。



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